嫌な汗が体中から
 
噴き出して止まらなくなるような
 
惨たらしい夢を時折見る。
 
熱でうなされているときなど特に。
 
そこは深い森の片隅で。
 
見上げるとそこには
 
陽光の一滴さえも貪欲に
 
逃がすまいとするかのように
 
木々の枝が隙間無く生い茂り。
 
空さえ見えず辺りは滅法暗い。
 
下草など伸びず
 
木々の根は剥き出しである。
 
根は幾重にも枝分かれして
 
まるでガン細胞に絡まる
 
新生血管のようだ。
 
その根の隙間には
 
あろうことか人がびっしりと絡まっている。
 
根は執拗に絡まり
 
人々を苗床にしているようだ。
 
ふと、見知った顔を目の端に止める。
 
ああ、やはりお前か…。
 
その首に根が絡まり
 
そこから体内に根が張り込んでいるようだ。
 
身動きもできず
 
気が遠のくほどの痛みに襲われているのか
 
全てを諦めきっているのか
 
とにかく虚ろな目をこちらに向け
 
ぱくぱくと息をしているのか
 
何かを訴えかけているのか
 
口を弱々しく動かす。
 
俺はジーンズのポケットをまさぐり
 
出て来た白いキャンディを
 
そいつの口に放り込んでやる。
 
口をもごもごさせながら
 
そいつの顔の表情が
 
すっと
 
和らいでいく。
 
時化が凪いだ夕海のように。
 
束の間
 
辺りがざわめきだす。
 
密かな声が重なり
 
大きなうねりを作り出す。
 
あの白いキャンディを
 
他の連中も欲しているのだ。
 
すまない
 
あれが最後の一つなんだ。
 
俺があいつにしてやれる
 
最後で唯一のことなんだ。
 
後ろめたい気分をその場に残し
 
俺はその森の出口を求めて歩き出す。
 
夢はそこで終わる。
 
嫌な汗で濡れた寝具が
 
目の無い爬虫類のようにいやらしく
 
俺の体にまとわりつく。
 
きっとあそこは
 
自ら命を絶った者の魂が
 
送られる場所なんだと思う。
 
致命傷となった部位に
 
木々の根が食い込み
 
哀れな者の魂の残滓と
 
生に対する悔恨を
 
音も立てずに啜り続けるのだ。
 
よく考えている。
 
悔恨などは湧き出してくるばかりだから
 
木々は肥え太る一方なのだ。
 
そして
 
森は広がり
 
より多くの苗床を求めだす。
 
実に狡猾なやり口だ。
 
哀れな魂たち。
 
どこにも行けず
 
痛みに支配され
 
死して尚虚ろなまま
 
いつしか枯れてゆく。
 
そんな酷いことがあるか。

その夢を見るようになって以来
 
自殺なんて絶対するもんかと
 
一層強く考えるようになった。
 
 
 

 

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