追撃

2004年3月13日 痴情
たっぷり寝るのよ。
 
 
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赤っ恥かいたよ、お兄ちゃん…」
 
妹は、帰ってくるなりそう言い放った。何だよいきなり愚痴かよ。
 
「お兄ちゃんが作ってくれた着うたあるやん、『ペリー』(※1)のやつ」
 
そういえば、妹の彼氏のために着うたを作って送ってやった覚えがある。
 
今日、妹は自分の店の内装を担当してくれている業者の方と打ち合わせ
をしていたらしい。
 
その業者の方は髪を後ろに束ね、いかにも侍風の出で立ちであった
そうな。
 
「ヘアスタイルかっこいいですね、ジャパニーズ侍ですよね」
 
みたいな話をしている正にその時、妹の携帯が
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
          「ちょんまげ・ちょんまげ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
と、メールの着信を知らせたらしい。あの間延びしたペリーの声で。
 
場内の空気が凍りついたことは言うまでも無い…
 
 
 
 
 
 
てゆーか、妹よ、
 
それを着信音(※2)に設定していた
             おまえの方がイタイかと思われ
(藁

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「そこに散らばっているのは
 
  昨日まで私の家族だったモノです」
 
 背中に茶ぶちのある白毛犬がやけに大儀そうに口を開いた。
 
「そして、
 
 そっちに散らばっているのは
 
  昨日、私から家族を奪った者、だったモノです
 
     もう悪さができないように四肢を噛み千切ってやりました」
 
 口から覗いた牙がやけに鋭く見えた。正直ぞっとした。
 
 --家族を埋葬してやらないのか?
 
「いえ、全ては風と砂が持ち去ってくれるでしょうから」
 
 犬はそういって、砂丘の彼方を見遣った。
 
「ここは空気が乾燥してますからね、余計な水分は全て風が吸い上げて
東へと運んでいってくれるんです。そのうち砂があの砂丘から押し寄せ
て全てを覆い隠してくれるでしょうから、遺骸はそもそも腐敗しないで
すし、遺骸を見て胸が痛むのも、それまでの辛抱でしょうし」
 
 どす黒い怒りを思い出すのもね、そう付け加えて犬は黙った。
 
「あなたの住んでいるところでも、空は青いのですか?」
 
 --青い日もあるし、灰色の日もある。
 
「灰色ですか、あまり想像したくもない空ですね」
 
 --雨が降ったらこちらでも灰色になるだろう?
 
「ここはほら、雨自体なかなか降らないんです。降ったとしてもものの
数分で止んでしまう。始終乾いているんです。
 
 でも、
    空の色を嘗めていると、
                   不思議と渇きが癒されるんです」
 
 犬は少し顔を上げ、くんくんと鼻をならした。
 
「空は一つなのに、
 
  その空の青色は一つではないと、前に聴いた事があります。
 
 私のいう青色は、あなたの思い浮かべる青色と重ならないかもしれない。
 
 もし違ったとしても、
 
  あなたはあなたの青色を思い起こしてくれればそれでいいですから
 
    それがあなたの渇きを癒すものでありますように」
 
 犬はそういって自分が塒にしている洞穴へと入っていた。
 
 俺はとりあえず、東に向かって歩いてみることにした。
 
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※1「ペリー」
宮崎吐夢氏のコント「ペリーのお願い」など一連の作品を指す。
http://seia318.hp.infoseek.co.jp/peri.htm

※2「着信音」
後に、妹の彼氏の悪戯であることが判明。ナイスジョブ…。

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